カトウ美創 代表(川西町) 見えない所に技を活かす。 それがプロの塗装士の仕事だ。 一級塗装技能士として、住宅、マンションから学校、鋼橋など、30数年にわたりあらゆる建物の塗装を手掛けてきた加藤賢さん。 「見えない所を丁寧に塗るのが良い塗装」と語るその顔に、経験を塗り重ねてきたプロの塗装士としての矜持が見られた。 ※所属等は取材当時のものであり、現在と異なる場合があります。
■アルバイトからこの道へ 加藤さんがこの世界に入ったのは21歳の時だった。アルバイトで知り合いの塗装店に勤めたのがきっかけで、まったくの素人からの出発であった。しかも、周囲は「見て覚えろ」というだけで何も教えてくれない。生来の負けん気を発揮し、一生懸命見て覚えた。 そして、24歳の時に地元で人を雇い独立した。「無謀でしたね」と当時を振り返り苦笑する。塗装業は4~5年で技術は身に付かない。そのため仕事を請けながら技を習得していった。「帰ってから夜遅くまで勉強しました」。師匠も親方もいない独学である。 ■要求されるミクロン単位の厚さ 塗装の技術で求められるのは「均等の厚さで塗る」こと。一定の厚さで塗らないとつなぎの部分や乾燥したときにムラが出る。それは「経験を積んで覚えるしかない」という。例えば、橋梁の場合、塗膜の厚みがミクロン単位で指定される。塗り厚はその日の天気、湿度、温度が大きく影響する。溶液剤などを微調整しながら塗料を仕立て、慎重に、素早く塗っていく。それは、「数え切れないほど現場を踏んできた職人だけが身につく技」であり「経験の数だけ完成度が高まる」という。そこが魅力でもある。 ■日進月歩の塗料の特徴を覚える 塗る技術以上に求められるのが「塗料の知識」である。塗料の種類は数限りない。それを素材、機能、要望などによって使い分ける、塗料によって調合、道具、工程が異なる。それに加えて新製品が次々に開発される。その都度、特性を覚えないと仕事にならない。だから、加藤さんは常に販売店やメーカーと接触し、イベント等に参加している。いつもアンテナをはりめぐらせていないと時代に遅れる。「毎日が勉強という点では下積み時代から変わっていませんね」と加藤さんは語る。 ■見えない所で決まる塗装品質 「良い塗装とは」の問いに、「見えない所を大事にすること」と答える。塗装は下地処理の丁寧さが塗りのもちを左右する。特に外壁の汚れやサビの除去・ひび割れの補修などが大事だ。その時は分からないが、数年たって、あきらかに差が出てくる。 塗る時も同じだ。「見えない部分から塗る」。素人は表から塗り始めるが、裏や下の部分をきちんと塗って、塗りやすい所を最後に塗るのが基本という。「塗りにくいところを丁寧に仕上げる。それがムラなく美しく仕上げるコツだ」と若い職人へ言い聞かせている。 ■塗装業はサービス業でもある もう1つ若い職人に教えていることがある。「塗装業はサービス業だ」。加藤さんはお客さんとの対話を大事にしている。そしてお客さんのイメージを的確にとらえて、仕事に取り組む。色見本だけで確認して塗るとお客さんのイメージとかけ離れてしまうことが多い。また、プロの立場で、お客さんの目線で、予算を確認し、10年、15年先を見つめて最適な塗装を提案していく。それが満足していただく塗装をする秘訣という。 最近、加藤さんに嬉しいことがあった。息子さんが後を継ぐという。2級塗装技能士の資格を取得し、今、1級塗装技能士を目指している。現場で息子さんの働く姿を見て、「失敗を塗り重ねながら歩んできた30数年でしたが、決してムダではありませんでしたね」とほほ笑んだ。 |